お目当ての温泉は道の駅の近くにあった。
ここまで来る道すがら、彼は結婚していたことがあり子供もいるということを知った。
あまり驚かなかった。なんかわかる。聞いたときにそう感じた。
ゲイゲイしくないというか、なんというか。
言葉にできない。本当に感覚だけだけど、会った瞬間そう感じたのだ。
割とノンケ至上主義者な僕。多少ノンケ感のあるバイも結構好きだったりする。
自己嫌悪からゲイ全体への嫌悪を募らせ、必要以上にノンケを崇め祀り上げる。
そのためかノンケ感にすごく敏感で僕のバイセンサーの感度はかなり高い。
アイデンティティの確立する青春時代に根本的な何かをこじらせてしまったんだろう。
自分でもよくわからないが、なんだかめんどくさい人間になってしまったなぁ。
子供が欲しかったと彼は言った。ゲイであるということはわかっていて結婚したとも。
それでもどうしても男とやりたくなって離婚したそうだ。
親にはカミングアウトしていると言っていたし、家族との関係は悪くはなさそうな感じがした。
僕は彼のようにバイにはなれなかった。一応女の子と付き合って突き合ってみたけれど。
女相手じゃ全然うまくできなかった。去勢されてんのかというぐらいできなかった。
偽装婚も割と真剣に一時期考えていた。
でもそんな器用な人間じゃないことに後から気づいて今は完全にあきらめている。
姉二人の後の待望の長男として生まれた僕。親には孫を見せてあげたかったのだけど。
近くの大手企業の職場で派遣で働いているとも彼は言った。
九州を転々とする前もおそらくいろんなところを転々としてきたのだろう。
その土地、その土地で人も風景も違うものに触れて充実した毎日を送ってきたのだろう。
少なくとも地元に縛られ続ける僕よりはよっぽど健康的に見えた。
彼とのわずかな会話の中に僕の心がバンバン動くワードがたくさんあって、そんなつもりで会ったんじゃなかったのに自分自身の今後の生き方をすごく考えてしまった。
温泉はとても気持ちがよかった。
全国有数のアルカリの強い温泉で、つるつるになれる美人の湯。
彼は仕事終わり、毎日のように車を走らせやってきているのだそうだ。
帰り道、彼はあちこちに寄り道をした。
以前から気になっていたという大きな屋根の古民家や桜がきれいな場所。
おっさんのくせに好奇心の強い少年のようでかわいかった。
最後に立ち寄ったのはネカフェ近くの町の公園。
うっすらグレーに暮れかかる夕日とまだまだ咲き誇る桜の木々が美しい。
知らないおっさんと知らない町の桜を見ている自分がなんだかおもしろかった。
平成最後の桜。一人であったならこんなにゆっくり見れなかったかもしれない。
そして、綺麗に思えなかったかもしれない。
彼はなるべく誰かを誘って外に出るようにしているそうだ。
一人で過ごせない人ではないのだろうが、ひとりのさみしさはあるのかもしれない。
ネカフェまで彼は送り届けてくれてそこで別れた。
僕はもっと彼に触れたかったが、最初に明日は仕事だとよくわからないウソを言ってしまったので気を使ってくれたのかもしれない。
まぁそこまで彼に僕がハマらなかっただけだろうけど。
結局、ムラムラが募ったドライブとなったが悪くなかった。
それどころかいい時間を過ごせたと思えた自分がいた。またいつか、があれば会いたいと思った。