Eさんとは以前の職場で一緒だった。
Eさんは誰に対してもやさしい人でいつも笑顔の人だった。そのため職場の女性社員からも人気があったし、入社したばかりの僕にもやさしく目をかけてくれた。
以前の会社は田舎の小さな製造業の会社でトップが時代錯誤のパワハラをするような人間だったために気苦労の絶えない職場だった。
みんなトップに不満を抱えているのに誰も何も言えないという鬱屈した状況。
フォローすべきナンバー2もトップのコバンザメのような人間で絶望的な会社だった。
結局、Eさんはトップからのパワハラ(一部暴力的な行為もあった)に耐えかねて会社を辞め、転職した。
一度会社を辞める前にしばらく休んでいたEさんが僕に電話をしてきたことがあった。精神的に落ち込んでいたEさんは故郷の海が目の前に広がる実家から電話してきた。
電話の向こう、Eさんの声の後ろには海鳥の鳴き声も聞こえていた。
Eさんの弱った声を聞くのは涙が出るほどつらかった。
が、なんとかEさんの力になりたくてただただEさんの話を聞いた。
何を伝えたかは覚えていない。とにかくゆるく励まして話に頷いたのだと思う。
それまで会社の愚痴を言い合ったり仕事でフォローし合ったりは多少したものの、しっかりEさんと心が通じたのはそれが最初だったような気がする。
その後、僕もクソみたいな会社を無事に辞め、転職をした。
お互い転職してしばらくはたまに電話をするくらいだったが、その後ちょくちょく会うようになった。
田舎者にとってドライブは数少ない娯楽の一つだ。何かと言うと車を走らせる。
Eさんとのドライブも最初はなんてことはない目的地もないドライブ。
僕が車でEさんを迎えに行きお互いの近況をしばらく話して適当な場所でUターンして帰ってくるだけだった。
いつからかEさんがスーパーに行きたいと言うので仕方なく連れて行くようになった。
家族でもないおっさん二人でカートを押しながら食料品などの買い物をする。
もちろん買っているものは僕の買い物もあるけれどおもにEさんの家庭用のもの。
たまに僕は何をしているんだろう。。。買い物の足にされてるだけじゃん。。。
などと思いながら付きあっていたのだが、、、
ここでEさんのスペックを説明する。
Eさんは今年52歳。十分すぎるおっさんだが、見た感じ40代前半でも通る感じ。
元強豪校の高校球児で残念ながら肘の怪我で断念したそうだが、今もそこそこガタイがいい。
顔と言うか雰囲気は俳優の光石研さんと元巨人の駒田徳広さんを足して2で割った感じ。
Eさんは既婚ノンケでもうお孫さんもいる。3人の息子もみんな高校球児にして立派に育て上げ今はほぼ独り立ちしている。奥さんとは近所の幼馴染で恋愛結婚だったそう。
今はすっかり奥さんの尻に敷かれ、毎朝の洗濯や炊飯もこなすとてもいい旦那さん。
とにかく誰にもでもやさしくて笑顔がかわいい。メガネをはずしたらちょっとたれ目なのがEさんである。
実は僕はEさんにうっすら恋心を抱いていた。
そう、クソみたいな会社にいた頃からずっと。
仕事の出来なかった僕にもいつも優しく声をかけてくれてサポートしてくれたEさん。
そのやさしすぎるところがパワハラするようなトップには気に入らなかったのだろう。
やたらEさんにはきつく当たっていた。
そんなEさんを僕はいつも守りたかった。でも、できなかった。
下っ端の僕がEさんの上の人間に何か言えるわけもないしEさんを励ますこともできなかった。
時は流れて今では一緒にスーパーでカートを押しながら買い物している僕。
なんだかとっても変な感じ。数年前には全く想像できなかった、こんなこと。
でも、なんかうれしい。疑似夫婦体験とでも言うのだろうか。
あぁ、結婚したら、好きな人と生活したらこんな感じなのかななんて想像している。
Eさんと一緒にいれること、同じ時間を過ごせることがすごく幸せなのは確かだ。
たまに前述のようにこれは何の時間なんだろう。。。と疑問符が付くのも事実だが。
惚れた弱みと言うのかな。Eさんのただの足代わりでもいいとさえ僕は思ってしまっている。
僕はEさんにカミングアウトはしないだろうしもちろん告白もしないだろう。
ずっとこの気持ちは抱えたまま墓場まで持っていくのかもしれない。
でも、片思いでもなんだかワクワクしたりうれしい気持ちがあるのは確かだ。
だから、これでいいのかなって思う。
最後に一方通行の不安とワクワクの両面が絶妙に表現された名曲。